業績リスト

A03公募(2014-15) 岩楯 好昭

論文等 | 原著論文

2018

Chika Okimura, Yuichi Sakumura, Katsuya Shimabukuro, and *Yoshiaki Iwadate,
Sensing of substratum rigidity and directional migration by fast-crawling cells,
Physical Review E 97, 052401 (2018).

概要: 遊走細胞は一般的に誘引物質に匂いにつられてその濃度勾配に沿って前後極性を形成し運動方向を決めることが知られている。しかしそれら遊走細胞は誘引物質が存在しない空間でも運動している。これは細胞が化学的なシグナルを伴わずとも前後極性を形成できることを意味する。本論文では、細胞性粘菌や好中球様HL-60細胞が基質の柔らかさを感知して、その柔らかい方向に運動することを示した。 【岩楯好昭:研究の総括、原稿の執筆、作村諭一:実験データ解析、原稿の執筆】

2016

Chika Okimura. and Yoshiaki Iwadate,
Hybrid mechanosensing system to generate the polarity needed for migration in fish keratocytes,
Cell Adhesion & Migration 10, 406-418 (2016).

概要: アメーバ運動する細胞は、基層から加えられる力に応答して、移動のための前後極性を生成する。この反応は細胞の種類によって異なる。線維芽細胞のような「遅い細胞」はストレスファイバと呼ばれる細胞骨格を持つ。細胞を接着させたゴム状の基板を1方向に周期的に伸展させると「遅い細胞」はストレスファイバを伸展と垂直な方向に整列させ、細胞の形状も垂直に伸びる。ストレスファイバを持たない好中球様 HL-60 細胞および細胞性粘菌アメーバのような「速い細胞」は伸展と垂直な方向に遊走する。魚類表皮細胞 keratocyte は「速い細胞」でありながらストレスファイバを持つ。ゴム状基板の周期的な伸展に応答して keratocyte は「遅い細胞」として伸展と垂直な方向にストレスファイバを再配列させ、伸展と平行な方向に遊走する。一方、ストレスファイバを除去された keratocyte は、「速い細胞」として伸展と垂直な方向に遊走する。Keratocyte は、移動に必要な極性を生成するために「速い遊走細胞」と「遅い遊走細胞」の両方の要素を含むハイブリッドメカノセンシングシステムを有する。

Ayane Sonoda, Chika Okimura, and *Yoshiaki Iwadate,
Shape and area of keratocytes are related to the distribution and magnitude of their traction forces,
Cell Structure and Function 41(1), 33-43 (2016).

概要: 魚の表皮細胞ケラトサイトはおうぎ型の“かたち”を維持しながらアメーバ運動する。細胞の牽引力がどのようにこの“かたち”を形成しているのか明らかになっていない。ケラトサイトはスタウロスポリン(プロテインキナーゼの1種)で処理すると断片化する。断片化したケラトサイトも元のケラトサイトと同様の“かたち”を維持しながらアメーバ運動する。さまざまな大きさの細胞断片を作成し、牽引力や、牽引力発揮に関わる細胞内タンパク質の分布や牽引力を測定したところ、タンパク質の分布、牽引力出力箇所の分布はサイズによらず等しく、タンパク量と牽引力の大きさは細胞サイズ(面積)に比例することが分かった。

Chika Okimura, Kazuki Ueda, Yuichi Sakumura, *Yoshiaki Iwadate,
Fast-crawling cell types migrate to avoid the direction of periodic substratum stretching,
Cell Adhesion & Migration 10, 331-341 (2016).

概要: 細胞と細胞が接着している基層との力学的な相互作用を調べるために、最も有用な技術の一つは、弾性基層の繰返し伸展です。この刺激に応答して、細胞性粘菌細胞は伸展と垂直な方向に運動します。(1)これが粘菌に特有な現象なのか?、また(2)どのようなメカニズムで伸展と垂直に運動するのか?は不明のままです。(1)(2)の疑問を解決するため、本研究では、好中球様に分化した HL-60 細胞に繰返し伸展刺激を加えました。すると HL-60 細胞も細胞性粘菌同様、伸展と垂直な方向に運動することが分かりました。また、両細胞の軌跡の詳細な分析から、伸展に垂直な方向への方向転換の高い確率がそのような方向性のある移動の主な原因であることが明らかになりました。 HL-60 細胞は細胞性粘菌でみられる方向性のある運動は、彼らは行きたくない方向性を回避するために採用された生存戦略であるように思われます。 

Takako Nakata, Chika Okimura, Takafumi Mizuno, and *Yoshiaki Iwadate,
The role of stress fibers in the shape determination mechanism of fish keratocytes,
Biophysical Journal 110, 481-492 (2016).

概要: アメーバ運動する細胞は、その細胞の種類に特徴的な形状を有しています。どのように彼らが特有な形状を決定するかは興味深い問題です。運動中、ほぼ一定の三日月形状を維持し続ける魚類表皮細胞ケラトサイトは、細胞の“かたち”メカニズムを解明するための理想的な材料です。我々は、異なる魚種からケラトサイトを採取し、その形状および関連分子メカニズムを詳細に比較しました。ブラックテトラから採取した丸いケラトサイトは基質に及ぼす牽引力が小さく、シクリッドから採取した横長のケラトサイトは大きな牽引力を発揮しました。細胞先端のアクチンのレトログレードフロー速度勾配はブラックテトラのケラトサイトでは大きくシクリッドでは小さいものでした。シクリッドのケラトサイトのストレスファイバーを人為的に切断すると、切断部でレトログレードフロー速度が上昇し、細胞のかたちもブラックテトラのケラトサイトのように丸くなりました。以上より、ケラトサイトの“かたち”形成において、ストレスファイバーが、アクチン逆流速度を調節することにより、細胞の形状を維持する機構において重要な役割を果たしていることが分かりました。

2015

Naoki Narematsu, Raymond Quek, *Keng‐Hwee Chiam, and *Yoshiaki Iwadate,
Ciliary metachronal wave propagation on the compliant surface of Paramecium cells,
Cytoskeleton 72, 633-646 (2015).

概要: 原生動物における繊毛運動は一定の位相差を隣接する繊毛の間に維持し、繊毛打は波のように伝わります(metachronal 波)。一般に、 metachronal 波は、隣接する繊毛と細胞外液との間に流体力学的結合を必要としていると考えられています。この仮説を検証するために、我々は流体が通過することができないように、マイクロピペットを用いてゾウリムシの細胞を吸引し、細胞の前方と後方領域を流体力学的に分離しました。この状態でも、まだ metachronal 波が伝わりました。これは、流体力学的カップリングに加えて、metachronal 波を伝播させられる他のメカニズムが存在することを示唆しています。我々は、繊毛の基部同士が弾性体で繋がれ流体力学的カップリングがないモデルを作成しシミュレーションを施すとmetachronal 波を伝播することが分かりました。これが現実に起きているのか確かめるために、生きたゾウリムシ細胞を周期的に伸縮させたところ metachronal 波が同調することが分かりました。これは、流体力学的カップリングに加えて、繊毛基部の弾性も metachronal 波の伝播を媒介する重要な役割を果たし得る、ということを示しています。

Hitomi Nakashima, Chika Okimura, and *Yoshiaki Iwadate,
The molecular dynamics of crawling migration in microtubule-disrupted keratocytes,
Biophysics and Physicobiology 12, 21-29 (2015).

概要: 細胞のアメーバ運動は、複雑な生命現象において重要な役割を果たしています。現在では、一般的に、アメーバ運動に必須の多くのプロセスは微小管という細胞骨格によって制御されていると考えられます。しかし、魚類表皮ケラトサイト細胞では、微小管を含んでいない細胞断片でも、微小管重合の阻害剤であるノコダゾールで処理した細胞でも、未処理の細胞と同じ速度で運動します。本研究では、運動特性だけでなく、それを引き起こす分子機械、すなわち、アクチンフィラメント、ビンキュリンとミオシンIIの分布、および牽引力の分布も、ノコダゾール処理の影響を受けないことを示しました。これらの結果は、微小管は、運動特性の面だけでなく分子メカニズムの面でも、ケラトサイトのアメーバ運動に必要ないことを示唆しています。



論文等 | 総説解説

2017

Chika Okimura and Yoshiaki Iwadate,
Directional cell migration in response to repeated substratum stretching,
Journal of the Physical Society of Japan 86, 101002 (2017).

概要: アメーバ運動は、発生、創傷治癒および免疫系機能を含む様々な生物学的現象において重要な役割を果たす。 前後極性、方向性、および速度などの移動特性は、化学誘引物質の受容だけでなく、外部環境からの機械的入力を感知することによっても調節される。 このレビューでは、アメーバ運動する細胞の機械的応答、特に弾性基層の繰返し伸長下での細胞の応答を説明し、細胞には、アメーバ運動に必要な前後極性を生成する2つの独立したメカノセンシング機構が存在することを述べる。 細胞性粘菌アメーバおよび好中球様分化HL-60細胞などのストレスファイバーを有さない細胞は、ミオシンII局在化を介して伸展方向に垂直に移動する。 しかし、ストレスファイバーを有する細胞、例えば魚のkeratocyteは、ストレスファイバー依存的に伸展方向に平行して移動する。 



国際会議発表

2015

Poster

Takumi Hayakawa, Yoshiaki Iwadate, and *Yuichi Sakumura,
Computational Model of Directional Cell Migration in Response to Mechanical Stimuli,
International Symposium on Fluctuation and Structure out of Equilibrium 2015 (SFS2015) (Aug. 20-23, 2015), Kyoto, Japan.

Chika Okimura, Kazuki Ueda, Yuichi Sakumura, *Yoshiaki Iwadate,
Directional Migration of Neutrophil-like HL-60 Cells by Cyclic Substratum Stretching,
International Symposium on Fluctuation and Structure out of Equilibrium 2015 (SFS2015) (Aug. 20-23, 2015), Kyoto, Japan.

Oral (contributed)

*Yoshiaki Iwadate,
Crawling cell migration controlled by mechanical interaction with substratum,
The 6th International Conference on Computational Methods (ICCM2015) (Jul. 14-17, 2015), Auckland, New Zealand.


2014

Oral (contributed)

*Yoshiaki Iwadate, Chika Okimura, Takahumi Mizuno, and Yuichi Sakumura,
Directional migration of fast-crawling cells in response to cyclic stretching of substratum,
Symposium on Mechanobiology 2014 (May 20-23, 2014), Okayama, Japan.

*Yuichi Sakumura, Chika Okimura, and Yoshiaki Iwadate,
Computational model of directional migration of crawling cell on anisotropic substratum,
Symposium on Mechanobiology 2014 (May 20-23, 2014), Okayama, Japan.




著書

2015

「メカノバイオロジー」曽我部正博(編)
“細胞運動のメカノバイオロジー” 岩楯好昭
化学同人(2015), 61-72, ISBN : 9784759817218

概要:運動性細胞は繊維芽細胞などの運動速度の遅いものと,細胞性粘菌アメーバ,魚類ケラトサイト,好中球などの運動速度の速いものとに分けられる.繊維芽細胞と粘菌を比べてみると,大きさは繊維芽細胞が粘菌のおよそ10倍,運動速度は10分の1である.細胞骨格構造として繊維芽細胞にはストレスファイバーが見られるが,粘菌には無く,より細いアクチンの密な網目構造が見られる.基質牽引力を測ると,繊維芽細胞は粘菌の10倍の力を発揮している.さらに,牽引力の分布は,繊維芽細胞では前端で大きいのに対し,粘菌では後端で大きい.硬さの不均一な基質上では,繊維芽細胞は基質の硬い方向に進むのに対し,粘菌は柔らかい方向に進む.遅い運動性細胞の繊維芽細胞と速い運動性細胞の粘菌アメーバでは,運動機構が異なるのだろう.速い運動性細胞のうち,大きさや形が粘菌とそっくりな白血球は,繰り返し基質伸展のような外部からの機械刺激を与えると粘菌と同じ応答を示し,ストレスファイバーを持つケラトサイトは粘菌と異なる応答を示す.運動性細胞と“力”の分子レベルの関係は,“力”シグナルが細胞局所で何を起こすかということが,最近,ようやく細胞種ごとに分かってきた.局所的な反応が前後極性など細胞全体の運動に発展する機構やそれが細胞種に依存しない原理であるかなどが今後の興味深い課題である。
新学術領域研究「ゆらぎと構造の協奏:非平衡系における普遍法則の確立」