研究概要

領域代表者:佐野 雅己
東京大学 大学院理学系研究科 教授

本領域の目的

物質の平衡状態の研究は熱統計力学という確立した方法論に立脚しているのに対して、非平衡状態を扱う科学は、まだ発展段階にあります。非平衡系を記述する一般的な法則を見いだし、それをもとに、自然現象を理解し制御することは現代科学の大きな未解決課題であると言ってよいでしょう。その非平衡系の科学が、20世紀後半から大きな変化を遂げつつあります。一つは、自己組織構造に関する研究であり、平衡から遠く離れた状態で始めて起こる自律的な時空間構造の形成やカオスや乱流の発生に関する理解は大きく進みました。また、約20年前に発見された非平衡状態でも成り立つ「ゆらぎの定理」は、従来の熱力学法則を内包しながら、最近では情報を含む熱力学へも拡張され始めています。しかし、この2つの発展は、これまで半ば独立なものとして研究が行われてきました。本新学術領域の目的は、これらの独立に進められてきた「非平衡ゆらぎ」と「時空間構造」という非平衡科学の二つの大きな流れを、それぞれメソスケールの領域にまで押し進めて発展させ、両者を統合する新しい研究の潮流を生み出すことです。実際、「非平衡ゆらぎ」の普遍法則の発見や、メソスケール系での実験技術の進展により「ゆらぎ」と「構造」を統一的に扱うための環境は整っており、統合による非平衡科学の飛躍的発展の機は熟していると言えます。本領域では、量子凝縮系、固体物理、ソフトマター、非平衡統計力学などの分野の実験家と理論家の密接な連携により、個々の対象を越えた普遍的で応用性に富む知見を切り拓くことを目指します。ミクロとマクロをつなぐ統計力学の手法を縦糸とすれば、異なる対象を統一的に扱う非線形物理の手法は横糸と言うことができると思います。これらの縦糸と横糸という、従来の2つのアプローチが交差するメソスケール系において、ゆらぎを伴う時空間構造を研究対象とし、最新の理論とゆらぎの精密測定・制御技術を融合させ、非平衡科学の新しいパラダイムを創成することが本領域の目標です。

本領域の内容

上記の目的を達成するため、本領域では、「基礎班」、「時空班」、「機能班」の3班を設け、以下の研究項目を実施します。
(1) 非平衡ゆらぎの普遍的な法則の探求
(2) ゆらぎと構造が相関する非平衡現象の解明
(3) 非平衡ダイナミクスから生命機能の展開
研究項目(1)では、量子凝縮系、ソフトマター、バイオマターなどの系において、非平衡ゆらぎの普遍性を手掛かりとして、ミクロとマクロをつなぐ非平衡系の普遍法則の確立を目指します。(2)では、マクロとメソ構造の間にフィードバック相互作用があり、ゆらぎと構造が強く相関するような現象の解明を目指します。(3)では、物質の創発的な非平衡構造に即して、単なる物質の集合が自己生産、自己駆動、情報の伝播など生命の基本特性を発現するための物理機構を解明し、生命現象の物理的理解に挑みます。

研究についての詳細(領域計画書より抜粋)

新学術領域研究「ゆらぎと構造の協奏:非平衡系における普遍法則の確立」