業績リスト

A03公募(2016-17) 義永 那津人

論文等 | 原著論文

2018

*Natsuhiko Yoshinaga and Tanniemola B. Liverpool,
From hydrodynamic lubrication to many-body interactions in dense suspensions of active swimmers,
European Physical Journal E 41, 76 (2018).

概要: アクティブな粒子懸濁液の高濃度での流体相互作用についての研究を行った。特に、粒子間の距離が十分近い時に生じる潤滑力について、一般的な解析を行い、三次元および二次元での相互作用を計算した。長距離での相互作用と組み合わせることによって、非常に大きなシステムサイズで数値計算を行い、集団運動の解析を行った。流体を考慮しないアクティブ粒子について従来報告されていた、マクロな相分離は流体相互作用によって抑えられ、力の双極子が大きい場合には有限サイズのクラスターが現れ、四重極の場合には一様配向が潤滑力によって生じることを明らかにした。 

*Hiroyuki Kitahata and Natsuhiko Yoshinaga,
Effective diffusion coefficient including the Marangoni effect,
Journal of Chemical Physics 148, 134906 (2018).

概要: 水面の粒子から表面張力を変化させる化学物質が溶け出すと、水面に化学物質の濃度勾配ができてそれがマランゴニ対流を作り出す。また、移流によって対流が化学物質を輸送することによって、化学物質の拡散は速くなる。このマランゴニ対流の効果を解析的に取り入れ、実効的な拡散係数を計算した。見積もった拡散係数と数値計算、および実験の結果とを比較しよい一致を得ている。 【北畑裕之(理論の構築、数値計算、論文執筆)】

Kyongwan Kim, Natsuhiko Yoshinaga, Sanjib Bhattacharyya, Hikaru Nakazawa, Mitsuo Umetsu, and *Winfried Teizer,
Large-scale chirality in an active layer of microtubules and kinesin motor proteins,
Soft Matter 14, 3221-3231 (2018).

概要: 生物個体の発生において左右の決定は体の軸を決める重要な過程である。卵細胞におけるいかなるキラリティーも大きなスケールでのキラリティーを決める要素となり、例えば、細胞骨格の要素である微小管はキラリティーを持ったものである。しかし、分子レベルのキラリティーがどのようにして細胞レベルのキラリティーへと階層的に結びつくのかは未解明である。我々は、キネシン分子モーターと微小管の擬二次元層において、ミリメートルスケールの大域的なネマティック秩序が生じ、これが反時計回りに回転することを見出した。理論モデルを用いた解析から、このネマティック秩序は、メチルセルロースによる局所的な配向の効果から生じ、回転は微小管の自発曲率から起きることが分かった。

2017

*Natsuhiko Yoshinaga and Tanniemola B. Liverpool,
Hydrodynamic interactions in dense active suspensions: From polar order to dynamical clusters,
Physical Review E Rapid Communications 96, 020603(R) (2017).

概要: アクティブな粒子懸濁液の流体力学的相互作用による集団運動について解析を行った。異なった長さスケールの流体相互作用を計算する新しい手法を用いることで、流体力学的相互作用の長距離部分だけでなく、同様に重要な粒子が非常に近づいた時の潤滑相互作用を取り入れた解析を行うことができた。過去報告されてきた自己駆動による相分離現象は流体力学的相互作用によって抑えられ、その代わりにゲル状のダイナミックなクラスターが形成することが分かった、また、長距離相互作用ではなく、潤滑相互作用によって大域的な配向秩序が現れることが明らかになった。

2016

Shunsuke Yabunaka, Natsuhiko Yoshinaga,
Collision between chemically-driven self-propelled drops,
Journal of Fluid Mechanics 809, 205-233 (2016).

概要: 相分離する二成分混合系として記述される自己駆動液滴の衝突について解析し、数値計算を行った。液滴は等方的な化学反応によって駆動され、表面張力勾配を自発的に生成して運動する。等方的な化学物質濃度の分布が、マランゴニ効果による液滴の運動によって不安定化する。この自己駆動運動についての対称性の破れは、粒子そのものに非対称性が存在するsquirmerや自己泳動粒子などの他の自己駆動のメカニズムと異なるものである。そのため、静止状態と運動状態との間に分岐が存在する。二つの液滴が、同じ軸上で反対方向に運動すると、流体相互作用と濃度場による相互作用が生じる。我々は、液滴の衝突が、自己駆動運動の転移点から距離によって、弾性的に振る舞う場合と、融合する場合が存在することを発見した。転移点からの距離は例えば粘性などによってコントロールできる。弾性的な衝突は、化学反応によるエネルギーの注入と流体運動による散逸がバランスすることによって生じる。我々は、衝突に対する縮約された方程式を導出し、それらを解析した。その結果、正面衝突に関しては濃度場による相互作用が流体相互作用より支配的になることを明らかにした。



論文等 | 総説解説

2017

*Natsuhiko Yoshinaga,
Simple models of self-propelled colloids and liquid drops: From individual motion to collective behaviors,
Journal of the Physical Society of Japan 86, 101009 (2017).

概要: 自己駆動粒子の理論モデルについての最近の研究のまとめを行った。比較的シンプルなモデルとして、アクティブブラウン粒子、squirmer、ヤヌス粒子を紹介し、自発的対称性の破れとして運動を実現するモデルについての議論する。これらのモデルでの集団運動についての研究も議論する。



国際会議発表

2018

Invited

Natsuhiko Yoshinaga,
Dynamics of defects in active nematic liquid crystals,
CSIAM 2018 Annual Meeting (Sep. 13-16, 2018), Chengdu, China.


2017

Invited

Natsuhiko Yoshinaga,
Active Soft Materials: Self-propelled motion and its collective behaviours of colloids and liquid drops,
Modeling and Numerical Analysis of Nonlinear Phenomena: Fluid Dynamics, Motion of Interfaces, and Cell Biology (Dec. 6-8, 2017), Tokyo, Japan.

Poster

Natsuhiko Yoshinaga,
Geometric control of wave instability in Min oscillations,
International Symposium on Fluctuation and Structure out of Equilibrium 2017 (SFS2017) (Nov. 20-23, 2017), Sendai, Japan.

Oral (contributed)

Natsuhiko Yoshinaga,
Theory of Active Soft Materials,
AMIS2017 (Feb. 13-17, 2017), Sendai, Japan.

Poster

Natsuhiko Yoshinaga,
The Hydrodynamic Interaction and Collective Behaviors of Self-Propelled Particles and Drops,
Gordon Research Conference: Complex Active & Adaptive Material Systems (Jan. 29 – Feb. 3, 2017), Ventura, USA.


2016

Invited

*Natsuhiko Yoshinaga,
The hydrodynamic interaction and collective behaviours of self-propelled particles and drops,
International Workshop on Hydrodynamic flows in/of cells (Nov. 24-25, 2016), Tokyo, Japan.

*Natsuhiko Yoshinaga,
The Hydrodynamic Interaction and Collective Behaviours of Self-Propelled Particles and Drops,
Current and Future Perspectives in Active Matter (Oct. 28-29, 2016), Tokyo, Japan.

*Natsuhiko Yoshinaga,
The Collective Behaviors of Self-Propelled Particles and Dropsthrough hydrodynamic interactions,
Patterns and Waves 2016 (Aug. 1-5, 2016), Sapporo, Japan.

*Natsuhiko Yoshinaga,
The Collective Behaviors of Self-Propelled Particles and Drops through hydrodynamic interactions,
Dynamics Days 2016 (Jun. 6-10, 2016), Corfu, Greece.

*Natsuhiko Yoshinaga,
The Hydrodynamic Interaction and Collective Behaviors of Self-Propelled Particles and Drops,
CECAM-HQ-EPFL: Emergent dynamics of out-of-equilibrium colloidal systems at nano- to microscales (Apr. 18-20, 2016), Lausanne, Switzerland.




著書

2018

Self-organized Motion: Physicochemical Design based on Nonlinear Dynamics” Satoshi Nakata, Véronique Pimienta, István Lagzi, Hiroyuki Kitahata, Nobuhiko J Suematsu (edi)
“Theory of active particles and drops driven by chemical reactions: the role of hydrodynamics on self-propulsion and collective behaviours”
Natsuhiko Yoshinaga and Shunsuke Yabunaka
Royal Society of Chemistry (2018), 339-365

概要:自己駆動運動の理論モデルについて、特に流体の効果に注目して議論を行った。また、化学反応によって駆動される自己駆動液滴の理論についても議論し、マランゴニ効果によって生じる流体運動を伴い、等方的な環境でも対称性を破って自発運動が現れることを明らかにした。さらに、二つの液滴の間の相互作用を計算することによって集団運動についても議論した。

2016

「材料表面の親水・親油の評価と制御設計」石井 淑夫(編)
“第5章 界面自由エネルギーから運動エネルギーへの変換第7節 温度勾配が駆動する粒子の運動〜Ludwig-Soret effect〜” 義永 那津人
テクノシステム(2016), ISBN : 978-4-924728-76-9 C3050

概要:Ludwig-Soret効果は、thermophoresis(熱泳動)やthermodiffusionなどとも呼ばれるが、温度勾配によって粒子が運動し、粒子密度が不均一になる現象である。歴史的には、カール・ルードヴィヒ(Carl Ludwig)により発見され、後におそらく独立にシャルル・ソーレ(Charles Soret)が詳細に調べた。当時はフィック(Fick)の法則やフーリエ(Fourier)の法則のような物質輸送や熱輸送に関する理論が知られ始めた時期であり、温度が不均一な場合にフィック(Fick)の法則を一般化する試みであったのではないかと推測される。物質輸送は、粒子密度の不均一性が、高密度側から低密度側への物質流によって解消される過程である。一方、熱勾配では、熱流が高温側から低温側に流れることによる輸送が生じる。Ludwig-Soret効果は、熱勾配によって物質輸送が実現する、熱と濃度などの異なった勾配と輸送との交差現象(cross coupling)に他ならない。この意味において、ルードヴィヒとソーレの発見は現代における線形非平衡の枠組みの基礎となるものであったと言っても過言ではない。本項では、温度勾配によって生じる物質輸送についての理論的な理解についての解説と、現実の物質に対するソーレ(Soret)係数の計算手法について紹介したい。Ludwig-Soret効果は、気体中での粒子の運動についても見られるが、ここでは溶液中の話に限定して進めていく。
新学術領域研究「ゆらぎと構造の協奏:非平衡系における普遍法則の確立」